2024年9月27日、28日はPyCon JP 2024のカンファレンスデーでした。
今回はトークの満足度が個人的にとても高かった。とくにコア開発、処理系、PEP Author(仕様策定に携わる人)のトークも充実しており、トークだけを見てもイベントとして贅沢なものだったと思います。
参加したトークはこのあたりでした:
- キーノート(1日目)
- Django Ninjaで高速なAPI開発を実現する: 実践ガイドとベストプラクティス
- Crimes with the Python syntax
- Extracting Structured Data from LLMs with LangChain and Pydantic
- An overview of the optimisation pipeline in CPython 3.13 and onwards
- Unlocking the Parallel Universe: Subinterpreters and Free-Threading in Python 3.13
- 【招待講演】PythonのUTF-8化
- Unlocking Python's Core Magic
- CloudFlare Workers in Pythonでサーバーレスアプリケーションを作ろう
- Sleuthing in Cython: Wrapping and Debugging Legacy C Libraries for Python
- Playing games in the browser with WASM
- The Wheelhouse of Horrors
- Why Knowing Cython Helps in Understanding Python: A Deep Dive into Cython & PVM
- プロダクションでのPython非同期ユースケース - Trio/Trio-Utilを中心に
- キーノート(2日目)
すべては紹介しきれないので、印象に残った点だけここで挙げさせてください。
ディープなトークの数々
Python 3.13で入るCPythonの最適化の話、Wheelパッケージの構造と動作の話(どのようにしてsoファイルを同梱するのか)、言語としてUTF-8を標準にしていく過程と開発者内での議論の話が印象的でした。コア開発に関わる人たちによる直接の話であり、Pythonそのものについて「どうより良くしていくか」、「どうなっているのか」という内部的な話を聞けたのが貴重でした。
Python 3.13ではスタックマシンの最適化のため、ある動作が繰り返された場合にTier2というマシンでTier1内の処理を反復しないような制御について説明されており興味深かったです。
PythonのエンコーディングをUTF-8にしていく過程の話も、いかにコア開発者の中でコンセンサスを取り、後方互換性を担保しながら一つひとつ前に進めていくリアルな話が大変面白かったです。完璧な正解のない世界ですし、僕たちが知らないような動作を保証する必要があったりと難しいものだと感じました。それを進めてくれるmethaneさんに改めて感謝したいものです。ありがとうございます。
初日のキーノート:James Powell
また初日のキーノートスピーチにはとても感銘を受けました。結論としてはツールやライブラリー、言語の思想や構造を理解したうえでそれに沿った使い方をすべき、というものでした。pandas
で金融のデータを扱うケースを参考にしつつ、「こういう使い方は間違いだよね」と紹介していくものでした。一番簡単な例を挙げると日時、銘柄、価格のカラムがあるのであれば、日時と銘柄をインデックスにして価格のみをカラムとすべきというものです。
ともかくとして単にツールを使うのではなく、そのツールのもつ思想や目的、内部的な構造を深く理解しようという啓蒙でした。データベースを使うにしても、DuckDBを使うにしても、何にしても「それがどういう内部構造でどういう意図のものか」を理解して適切に使おうというものです。ノウハウ、小手先のテクニックという話ではなく、プリンシパルに帰ろうという技術的な天啓を感じさせるものでした。
トークをたくさん聞けた
今回は私が登壇せず、スタッフでもスポンサーでもなかったので一人の参加者として改めて楽しめました。純粋に参加者として参加したのはPyCon JP 2011以来かもしれません(2012年にはJointイベントでDjango・Pyramidのスタッフでした)。
その中で本当に楽しめるトークが盛りだくさんで良かったです(もちろん上記した以外のトークも素晴らしいものばかり)。もうPythonは15年近くやっていますし、近年はPythonの用途も幅広くなっています。ですがその中でも新しい領域の話や、コア開発・ライブラリー開発に関わるディープなトークもたくさんあり堪能できました。
また、トークの後には質問ができたり、登壇者と直接話す機会があり現地に参加して良かったと思っています。子どもを連れての参加でしたので、イベントの前後の子守もあり正直疲れ果ててしまいましたが、全力で参加できて良かったです。
最後に、今の時代こそ
PyCon JP 2024はトークの内容としてもイベントとしても素晴らしいものでありました。スタッフの皆さまには感謝しております。
今の時代はイベント運営というのが簡単ではなくなったように思います。たくさんの人が関わっており、いろいろな意見、憶測、守るべきことなどが存在する世界です。それも大切なことですし、内省し改善すべきこともあるでしょう。ですがそういったリスクにさらされやすい運営の人たちが「じゃぁもう辞めようか」となってしまうのは悲しいものです。建設的な議論と、前向きな行動が、改めて周囲の僕たちを含めて必要なのかなと思います。
あとポジティブなフィードバックとかね。
今年のPyCon JP 2024はトークの内容もイベントも堪能でき、かつ技術的なディープさもちゃんとありとても良かったです。まぁ、僕のこの「良かったよ」というメッセージは大して多くの人にも見られず、炎上しやすいマイナスの意見が人の心に残りやすいものです。でもだからこそ、今回はきちんと感謝を伝えたいなと思いブログに残すことにしました。
ありがとうございました。