(この話は僕の個人的なエッセーなので、話の深さや確かさは追い求めないでください。 90、00年ごろに書かれた、よくあるプログラマーエッセーみたいなものだと思ってください)
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僕の心には、どうしても「諦める理由」を探してしまうクセがあります。 何か新しいものを作ろうとするときに、「もうこの産業は成熟している」とか、「すでにレッドオーシャンだ」とかが僕の頭の中でささやかれます。
たぶん、誰の頭の中にも居るんじゃないでしょうか。
ただ、僕はその主張は間違っていると考えています。間違ってると言いたいです。 たしかに、僕が仕事の主軸を置いているWebの世界もドットコムバブルやITバブル(90年、2000年ごろ)から10年、20年と経ちます。 最近のWebサービスは、巨大な企業のサービスを解体して個々を提供しようとする「アンバンドル」や、UberやAirBnBのような「既存事業のWeb化」のようなものが多く、たしかにSFのような目新しさは少し陰りを見せているように思います。
でも僕はいつも「まだまだ成熟はしていないな」と思うようにしています (自分を鼓舞するためにも)。
どういうことでしょうか。
例えば考えてみてください。 世界初のパーソナルコンピューター、Altair8800ができたのは1970年代です (例え話ですので、この際何をもって世界初のパーソナルコンピューターと呼ぶかは議論しないでおきましょう)。
Altair8800から現代までで、40年の時間が経過しています。 現在(2018年)を「コンピューター時代の40歳」としてみましょう。
これを他の産業で考えていきましょう。
例えば車。Ford T が発売されたのが1908年です (ここでも、世界初の大衆車をFort Tと考えていますが細かいことはおいておきましょう)。
そう考えると、現在を「車時代の110歳」と考えられます。
現在はコンピューターの時代で40歳でしたね。 では「車の時代で40歳」はいつだったんでしょうか。 ジャガーSS100が40年代のようですが、見てみるといかにも昔っぽい車です。
身近なところですとHONDAが創業したのは1940年代です。
僕達のいる「コンピューター時代の40歳」は言ってしまえば、まだHONDAが創業して間もないころというレベルです。 こう考えると、今からコンピューターの世界で何か新しいことを始めるのも悪い気はしませんね (もちろん、Webの世界は産業がすぐにグローバルになってしまうので当時のHONDAと比べるのはおかしい、というのも分かります)。
この考え方は実に優秀です。 例えば、現在を「Mozaicブラウザー誕生からまだ20年」と考えればまだまだ今は車時代の1920年ですし、 電球(電気の大衆化)を考えるとエジソンランプが1880年代なので「電気時代の何歳」という考えもできます (参考 電球の歴史)。
僕が僕に言い聞かせたいのは、現在ばかり見てはいけないということです。
ミクロな視点でものを見ると、たしかに色んなものが流行っては廃れているので時代はかなり速く進んでいる(進んでしまった)ように見えます。 ですが、こうやって産業そのものの成り立ちや古い時代に目を向けると、まだまだ現代は若すぎます。 Fort T型からTesla Model3の間には100年以上の時間が空いています。
僕が僕に言い聞かせたいのは、まだまだ何かを生み出すチャンスはあるということです。
未来から見れば今はまだまだ黎明期です。未来は訪れるものではなく今の人間が作るものです。 僕の、あなたの作るものがHONDAになれるのかは分かりません。 TVR や Nokia7600 、Zune のようになるかもしれませんが、それでも生み出した価値はあると思います。 みんながSkypeを使っていた時代に登場したSlackもあります。
2018年現在
- プログラミングの環境構築は大変すぎます
- サーバー構築も大変すぎます
- Dockerは素晴らしいですが、以前複雑です
- 人類はまだExcelから卒業できていません
- RDBは素晴らしいですが今だにfilesortやindexやbinlogやよく分からないEXPLAINの結果に悩まされています
- ビデオ会議用マイク接続、GoogleHangout起動、スクリーン共有という無駄な5分を毎日使っています
- 未だにテキストを人に共有して一喜一憂しています
- パソコン通信と何ら変わりありません
- 通勤電車は昔からずっと超満員で人の精神を傷つけています
- リモートワークだけが解決策でしょうか?
- 他に良い通勤手段や、仕事場は無いものでしょうか
- 人類は今でもタイムカードや出勤簿をつけています
- 人類は今でもHTTP1.0/1.1やIPv4を使って通信しています
今だけを見ると全てはすでに成熟してしまったように見えます。今にはもう可能性が残されていないように思えます。 でもそれは自分が諦めてしまっているだけです。自分の創造性に蓋をしているだけです。 自分の可能性の芽を摘むのをやめましょう。ゴミの山の上に座って「まぁここも悪くないもんだ」と言うのはやめましょう。 今はまだ成熟していない、不満だらけの毎日です。何か、新しいものを作りましょう。
この話が好きだった人へ
初期の電気産業とゴールドラッシュ、次のイノベーションの比較をジェフ・ベゾスが語っているので、ぜひこちらも見てください。
歴史を知りたい人へ
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