Make組ブログ

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VR(VRChat)でのアバター販売と「VRの私」、そして販売戦略の考察

VRアバター、主にVRChatを想定した個人向けのアバターの販売について考えます。 VRChatのアバター販売は、普通でない面白い傾向がある と僕は思っています。

そのアバター販売のマーケットの面白さと、販売戦略を考えます(なんか、えらそうに言ってすいません)。

BOOTHに売られるたくさんのアバター(1つ数1000円ほどで買える): f:id:hirokiky:20210410143404p:plain

ここでいうアバターは個人の方が購入して、VRChatやVirtualCastといったVR SNSで交流するために使うと考えます (たとえばロポリこんミーシェといったアバターのことです)。

今回はアバター販売でどう売っていこうか?みたいな少し生々しい話をしますが、アバターを作っている人やVRに関わる人が適切にお金をもらって生活できることは大切だと思っています。「好きでやってるから、そういうの嫌だな」という人にはすいません。でも何か参考にはなるかもしれません。

VR(VRChat)でのアバター販売の特殊さ

僕もVRChatが大好きで1年以上プレイしている(VRChat上で酒を飲んでる)のですが、このアバターの販売とVRChatのユーザーさんたちに少し特殊なものを感じたので話をさせてください。僕はモデリングアバター販売もしませんが、一応、事業というか社長をやり始めた人間なので勉強がてらアバター販売について考えています。

特殊さを平たく言うと、あるアバターを愛するほど、もうその人は他のアバターを買わなくなるということです。

それっぽく言うならロイヤルティが高まるほど、LTVが伸びないということです。 現実で言うとグッチの帽子が大好きになったとして、他にグッチを買わずに、同じ帽子に色を塗ったり小物を追加したりしてずっと使い続けるということですね。グッチとしては困ります。

でも、アバターを作りたい人は新しいアバターを作ります。これはアバターを作る人が「アバターを作るのが好き」だからだと思います(たぶん)。アバターを作る人も、アバターを買う人もVRを愛しています。それ故に、不思議なことが起こります。

なぜアバター販売は不思議なマーケットなのか

それには VRの私」があるからです。 このVRパーソナリティとでも言うべきものが、VRChatでは超、超ド級に重要な要因となります(今、勝手に名付けました)。

VR上での僕: 僕が最近使っているクロイちゃん

VRChatを知らない人は想像してください。1ヶ月ぶりにあった友だちが顔や服装、身長も変わっていたらどう思うでしょうか。全くの別人です。「誰?」ってなりますよね。VRChatでアバターを変えると、そういうことが起こります。 たしかにネームプレートは頭上にあるのですが、心理的に姿が違うと結構驚くのは事実です。話しているときの感覚もかなり影響されます(場合によっては相手を好きになるかどうかも変わる)。

なので、多くのVRChatユーザーは基本的にアバターを変えません。普段使うアバターは2、3個くらいでしょう。たまに出すのを含めて5個か6個ほどあれば多い方だと思います。

さらに、特定のコミュニティに居付いた(VRChatにドハマリした)人ほどアバターを変えません。 それはVR上での人格(VRパーソナリティ)が形成されればされるほど、そのアバターに自分が宿ってるからです。 つまり、アバターにお金を使わなくなるということです。

ドハマリVRChatユーザーは改造で個性を出す

ドハマリしたVRChatユーザーも、自分のアバターには個性を出したいものです。 そこでVRChatユーザーはアバター改変やテクスチャー改変、小物の追加に乗り出しますアバターをいじって色を変えたり、買ってきたメガネを足したり、すごい人では体型や服を変えたりします(すごい。すごすぎる)。

なのでVRChatのプレイ時間が長い人ほど、PhotoshopやUnity、Blenderに詳しくなっていく傾向があります。

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Blenderは難しいが

ただ待ってください。 売る側としては、ファッション好きな人が服を作ったり改造して満足すると困ります。 アバターを買う人でも5個ほどしか買わないのであれば、アバター1つあたり4000円としても1人あたり2万円の売り上げです。なんと、ちょっと良いジャケット1枚くらいの売り上げです。それがプレイ時間1000時間とかいう「VRChatイコール人生」みたいな人でも起こっているわけですね。

アバターにはどういう販売戦略を取るべきなのか

アバターを作る側に話を戻しましょう。どういう販売戦略が考えられるでしょうか?

前提:人気アバターは作れない

まず、「人気クリエイターになる」、「人気になるアバターを作る」という考えはしないようにします。 アバターの良し悪しなどはスキルや芸術の問題なので、ここでは扱いません。戦略を考えましょう。

これは「アバターを売って生計を立てたい」「けど売れるアバターを作れない」という人向けへの戦略です。好きに作って好きに売るんじゃいという人は、好きにやるのが一番だと思います。

お客様への仮説3つ:VRパーソナリティ、意外とズボラ、お金は出す

おさらいすると、VRChatユーザー特徴として重要なのは「アバターを使い続ける」ことでした。 大切になるお客様の感情は「自分らしさ」を常に感じ続けたいということです。これを一番大切に考えましょう。

次に、「意外とみんなズボラ」という仮説を立てます。 これは僕なんかがそうなんですが、正直、UnityやPhotoshopBlenderを毎度使うのはしんどいです。たまに使うのは勉強になって良いですが、現実で言うと着替えの度に裁縫セットを持ち出すような状態なのは良くないと思います(実際の数字は要調査ではあります)。

最後に、「お金は出せる」という仮説も立てます。 VRChatユーザーの人口はまだまだ少ないですが、1人辺りが出すお金は多いと考えます。 フルトラッキングの環境やゲーミングPCに個人で合計30万円ほど出す人がざらにいます。コアユーザーのプレイ時間の長さや、「VRで飲めば飲み会より安い」ことを考えれば、それでも娯楽のコスパは良いです。

さらに愛の大きさを考えれば、意外と市場は小さくないと考えられます。これも要調査ではありますが、ここは「出す人は出す」前提で考えさせてください。

戦略1:正式対応の衣装、小物を大量に作る

VRChat用のアバターなどが売られているBOOTHを見ると、小物や衣装も大量に売られていると分かります。 たとえば有名アバター「ミーシェ」でBOOTH検索すると、第三者によるミーシェ互換の衣装や小物が大量にヒットします。

ミーシェより大きい多いミーシェ市場

アバター改変においても、小物まで自分で作ろうとする人はいないので、個性を出すために小物は大切です。 ですがアバターを作っている人が公式に衣装や小物を作っているのは稀です。

ここではそれを逆手に取って、アバターだけでなく、公式対応!一発導入!な衣装と小物を大量に作りましょう

人気のアバターが人気の理由の1つは、対応している衣装や小物が多いこともあります。 これを自分の売っているアバターに適応して、公式に衣装を作りまくります。ご一緒にポテトはいかがですか!(ホタテではない)

衣装だけで20個、小物で30個、テクスチャーで30個作れれば良いと思います。新しいアバターをいくつもモデリングするくらいなら、超優秀なアバターを1つだけ作って、衣装を10個作ったほうが良いです。 この公式の衣装、小物、テクスチャーの組み合わせで考えれば、数1000の個性を演出できます。

BOOTHを眺めたりVRChatを散策して、売れてそうな衣装や小物の傾向を分析しましょう。 それを公式に作って「ワンクリックで着せ替え可能!」にすればアバターも衣装も売れるでしょう。

さらに服が増えれば、個性に応じた自社ブランドを数個立ち上げてもいいでしょう。これは次のパーソナリティの網羅に繋がります

戦略2:パーソナリティの網羅

上記のポテト戦略に重要になるのは元となるアバターです。

まず、あなたが作るアバター1体には、3体分の労力をかけて作りましょう。 そして、そのアバターを2体か、できれば3体だけ作ります。

その少ないアバターで、パーソナリティを網羅できるようにしましょう。 パーソナリティとはたとえば以下です。

  • 長髪・短髪
  • クール・快活
  • 長身・低身長
  • フェミニン・ボーイッシュ

これは 「レイ・アスカ」戦略です。 エヴァを観た人はレイかアスカを好きになります。大人しい子が好きな人はレイへ、明るい子が好きな人はアスカへ。 短髪が好きな人はレイへ、長髪が好きな人はアスカへ(大人が好きな人はミサトかリツコか、という設計です。すごい!すごすぎる!)。

こんな感じで、少ないアバターの中でも色んな好み・個性が網羅できるようにしましょう。アバター単体では(VRChat基準の)万人にウケることを狙います(適度に個性やニッチがあると良いと思います)。 できれば対極的な2体があると良いです。そしてシェイプキーで見た目を調整できるのが大事 です。 シェイプキーと上記の服装やファッションの好みで、個性を最大限に出せるようにします。

アバターをいくつも作る必要はありません。アバターは販売のきっかけ(フロントエンド商品)と考えます。3000円以下で売るのが良いと思います。

サンプルアバターも、サンプル感を出さずに積極的に配布すべきです。購入したままアバターを使う人を想定しませんので、何も変更できないサンプルをずっと使われても痛手はありません。

戦略3:ロイヤルティカスタマー向け専用対応

同時に、お客様のロイヤルティ(愛)が高まった先にあるものを用意します。

それは受注生産です。 究極のパーソナリティ、究極の愛は「唯一無二であること」です。 この受注アバター絶対に一般へ再販してはいけません

受注生産と言っても、完全受注生産はしません。上記のアバターを元にして依頼された改変をしましょう。 スーツでいうイージーオーダーというもので、基本はありつつも好みに合わせて作っていくという感じです。

だいたい3~8万円ほどにまとまるのが理想です(VR機器の値段くらいなら僕も出せる範囲)。

そして、販売しているアバターでのイベントを定期開催します。 同じアバターを使っている人のファッションや小物、シェイプキーの組み合わせを披露し合います。そうすれば他の服や改変にも興味がでるでしょうし、自前で改良する知見も広まります。 ここに圧倒的にカワイイ受注生産アバターの人をお呼びすれば最高です。

こうして自分の作ったアバターを中心にコミュニティや世界観を作ることで、他のアバターにはないものが生まれます。 今、有名になっているアバターは自然発生的にこういうこと(対応衣装の販売、アバター集会、改造)が起こっているので、それを踏襲する戦略です。

有名アバターを作るというのはかなり難しいと思いますが、この3つの戦略を順にやっていけば割と買ってくれる人はいそうに思えます。 そもそもカワイイ・カッコいいというのは大前提ですが(!)。

まとめ

まずVRChat(VR SNS)におけるアバター販売の特殊さをまとめました

  • VRChatユーザーは、ハマるほど買わなくなる
  • アバターを作る人は、好きゆえにアバターを作る

さらにVRChatユーザーが本当に求めるものを考えてみました

  • VRパーソナリティが何より大事
  • 改変・改造が面倒に感じるときもある
  • お金はわりと出せるし、多少出してもプレイ時間が長いからコスパは良い

そしてその動向から3つの戦略を出しました

  • 衣装・小物・テクスチャーを公式で大量に作って売る(セットのポテト戦略)
  • パーソナリティを網羅できるアバターを少数先鋭で作る(レイアスカ戦略)
  • イベント開催と受注生産の対応(再販は絶対にしない究極の個性)

以上です。

僕はこの「VRパーソナリティ」と、それを基軸にした販売戦略というのはアリだと思います。 ぜひアバターの制作、販売で生計を立てている人は参考にしてください。まずは本当にこう考えるお客様がいるかをたしかめつつ、小さく始めるのが良いと思います。結果を僕に教えてくれると嬉しいです。

僕はVRChatやVR SNSの世界が大好きなので、この世界が産業としてもっと盛り上がれば嬉しいです。 あまりビジネスライクになるのは良くないですが、好きにモデリングする人がもっと増えて、生計をたてられるようにするのは大切だと思います。

それでは皆さん、かんぱい、かんぱい。

執筆:Kiyohara Hiroki (@hirokiky)この記事はShodoで執筆されました