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あなたは「今日が自分の人生最後の日だとしたら」を誤解している。ジョブズの言いたいことは何だったのか

"If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?"

あなたは「今日が自分の人生最後の日だとしたら」という名言を誤解しています。とても引用されることも多く、反論されることも多いこの言葉ですが、今日はこれについて解説します。

この記事の中で展開する話は、他人の特定の記事や言葉、ツイートを直接指し示しません。その考えは十分に尊重しますので、ご自由にしてください。反論を展開することもありますが、それは私自身の考えであり、1つの解釈なので自由にやっていきましょう。

話としてはまず、この言葉を「人生最後の日と思って全力疾走する」のように勘違いしている人が多いですが、それは大きな間違いという話をします。もとは「今日が自分の人生最後の日だったとしたら、今日やるべきだったことは本当にやりたいことだったろうか?」という問いかけで、これについて背景などを交えて深堀りします。まして「今日の仕事を死ぬ気でやろう」のように解釈する人も多いので、ここでちゃんと話しておきます。

前提として元の言葉は、スティーブジョブズがスタンフォードで行ったスピーチから引用されて有名になりました。 解説している私は、このスピーチの原文、ウォルターアイザックソンのスティーブジョブズ1スティーブジョブズ2スティーブジョブズ知られざる男の正体スティーブジョブズ1995という本やインタビューを元にして話しています。

「今日が自分の人生最後の日だとしたら」の解説

いきなり件のスピーチにはない話ですが、ジョブズの例をあげて説明します。

ジョブズはとある講演をしたのですが、そのとき横の席にいた女性を口説いて「土曜日にデートしよう」と約束をしていました。その夜に仕事の営業担当とのディナーをする予定があったのですが、車で向かってる途中にジョブズは「今日を人生最後の日と思って、何が大事なんだろうか?」と考え直すわけです。そこではたと大切なことに気がつき、車をUターンしてその女性のもとに向かったそうです(仕事のディナーを無視して!)。そして「さっきの話、今晩にしませんか?」と伝えてデートに行ったわけですね(この女性というのが後に妻となるローリーンさんです)。

この話を聞いた後だと、もとの言葉の印象がだいぶ変わると思います。

今日を全力で生きよう!という話であれば、ちゃんと営業担当とのディナーに行って社員を鼓舞すべきかもしれません。逆にただ「人生、何をすべきか考えろ」という投げかけだけであれば、その場で「何が正しいのだろう?」と考えるだけになってしまいますね。

ジョブズが伝えたいのは「シンプルになる」ということです。そのために「人生最後の日だとしたら」というツールを使うということです。人生をシンプルに考えて、デートを優先するということですね。

ではよくある反論への解説をしつつ、もう少し掘り下げていきましょう。

「人生はマラソンだ」という反論への反論

「人生最後の日と思って生きる」という言葉への反論として、「いや人生はマラソンだ。短距離走では生きられない」と言う人が非常に多いです。「常に全速力で生きるのは選ばれた人しかできない、マラソンこそ我々弱者の戦略」のように、妙な卑下をする人もいます。

違うんです。

ジョブズが伝えたいことは根本的に「あなたは今なぜ走っているんですか?」ということです。もっと言うと、 ジョブズは「あなたは "他人に走らされてるだけ" なのではないですか?」と伝えたい ということです。 なので、マラソン短距離走なんて話はどうでも良いんです。そんなペース配分の話はしていませんし、道を決めてる時点で間違いです。

スピーチでも「数日に渡って『今日が最後の日として満足に生きられたか?』にノーと答えたなら、僕は何かを変えないといけない」と話しています。もっと頑張らなきゃいけないとは言ってないんです。選択の話です。これは自分の人生を、今日の一日にどれだけ生きられたか、素っ裸になって生きられたかという問いです。スピーチ中では(死を意識することで)"You are already naked" に気づけると話されています。

他人のドグマにとらわれるな、という話

スタンフォードのスピーチでも「他人のドグマにとらわれるな」という話が展開されていきます。死は人類最大の発明であり、死を意識することで失敗への恐怖や恥、しがらみとしてあった思考が吹き飛んでシンプルになれる。だから他人のドグマにとらわれず、何でも良いからあなたの何かを(ガッツ、直感、信念など何でも良いので)信じて進みなさい、とジョブズは説くわけですね。

なので、大人のルールや約束事さえ「今日が人生の最後であれば(自分はいつか死ぬ)」という物差しで測り、会社でのディナーさえ無視してしまうんです。これは「何をすべきかを毎日考えなさい」というような説教臭いものではありませんし、まして「考えるより行動しなさい」のような浅はかな主張でもありません。

あなたはもう死ぬんだから、あなた自身の"何か"に従っていきなさい(従わない理由なんてないんですよ!)という話なんです。なので、言ってしまえば宗教・思想です。この言葉をヘタに引用する記事やコンサルこそ現代の「ドグマ」であり、無視すべき対象にこそ感じます。

非常に面白いのが、ジョブズのこのスピーチは「今を生きる」という禅的な思想と、ハングリーであれ愚鈍であれというヒッピーな価値観、ボブディランの「古いものが新しいものへと変わっていく」(The times they are a-changing')という世界への俯瞰を合わせたようなジョブズの考え方が全体を通して常時展開されているということですね(オタク特有の早口)。

まとめ

長い話を読んでくれて、ありがとうございます。 「今日を人生最後の日と思って生きる」という言葉の解説をしてみました。 たった一言ですが、奥にはこういったジョブズの思想があると感じていただけると嬉しいです。

ティージョブズのスピーチは言葉の端々をよく引用されますが、大切なのは全体として一貫している思想を読むことだと思います。ジョブズ自身の禅的な思想や死に対する姿勢、ディランから引用したような言葉や彼自身の人生経験、それらを含めたとても良いスピーチなので、それ故に切り取られて誤解があることを寂しく思います。

とは言っても、ジョブズ自身は自分を脚色する傾向がありますので、このスピーチや私が参考にした本やインタビューすら嘘かもしれません。

答えは分かりません。本当のスティージョブズにはもう会えないんです。 僕たちはその末法を生きるしかないのですから。

執筆:清原 弘貴 (@hirokiky)この記事はShodoで執筆されました

引用・参考元

スピーチは本当に英語のままがお勧めです。

www.youtube.com

この辺買っておくと良いです。