前回書いたように株主総会や決算が終わり、やっとまともな呼吸ができるようになって、ストーナーという小説を読んでいました。途中までほんの少しずつ読んでいたのを、精神的な落ち着きが得られた今になって、一気に読み終えることができました。
本の感想はあまり言いたくないというか、自分の中でもう少し大事にしたい何かがある状態です。なので人におすすめなどはしたくないものの、どんな感想でも見つけ出して自分のものにしてしまえる時代だからこそ、何かを書いておきたい気持ちになっています。おそらくは、読み終えた人の大半はこんな感情になるんじゃないでしょうか。
太鼓判を押したいものでもないですが、自分の中で大切にしたい何かがある本でした。小説(とくに純文学)を読むのも久しぶりといえばそうで、最近はエンジニアや経営者らしく技術書やビジネス書、会計の本などばかり読んでしまっていました。だからこそ、この本を読めて良かったと思いますし、たまたま妻と娘が家にいない貴重な自分の時間をこの本の最後に割けて良かったです。妻子をもつと一人の時間ってものすごく貴重なので、それを読書に使うのはほんとうに贅沢なことですからね。それでも良かったと思っています。
まぁ、これを感想とさせてください。
むしろ結婚し、子どもを育て、そして仕事を頑張るなかでこそ味わえた読了感なのかもしれません。読み終わったときは悲しみというか、何かを失った気持ちになりましたが、今はそれも含めて受容する精神的なプロセスのようなものを感じています。そういう本なんです。
こんな気持ちになった本はサン=テグジュペリの「人間の土地」以来かもしれません。
思えばここ数年は、あまりにも世俗的というか、目的をもって本を読むことや消化することに汚染されすぎていたなと思います(以前もそんな話をしましたが)。この本の冒頭から分かるように、劇的でなくヒーローも登場しなければ、快活でも知見を授けてくれる本でもありません。でもだからこそ、読む価値があったなと思える時間でした。そういえば、こんなにも純粋に活字そのものに心を惹かれたことって最近あったっけ?と思えるほどです。嘘みたいな話ですが、さっき出ていった妻がすぐ帰宅して「忘れ物でもあったかな」と思っていると、もう1時間近く経っていたということもありました。
今、僕の横には「肩をすくめるアトラス」があるのですが、また何か目的主義的というか何らかの悪癖に身を投じる予感がしています。今だけはもう少し、ありのままの世界に浸らせてもらいましょう。