VR アバター 、主にVRChat を想定した個人向けのアバター の販売について考えます。
VRChatのアバター 販売は、普通でない面白い傾向がある と僕は思っています。
そのアバター 販売のマーケットの面白さと、販売戦略を考えます(なんか、えらそうに言ってすいません)。
BOOTH に売られるたくさんのアバター (1つ数1000円ほどで買える):
ここでいうアバター は個人の方が購入して、VRChatやVirtualCastといったVR SNS で交流するために使うと考えます
(たとえばロポリこん やミーシェ といったアバター のことです)。
今回はアバター 販売でどう売っていこうか?みたいな少し生々しい話をしますが、アバター を作っている人やVR に関わる人が適切にお金をもらって生活できることは大切だと思っています。「好きでやってるから、そういうの嫌だな」という人にはすいません。でも何か参考にはなるかもしれません。
VR (VRChat)でのアバター 販売の特殊さ
僕もVRChatが大好きで1年以上プレイしている(VRChat上で酒を飲んでる)のですが、このアバター の販売とVRChatのユーザーさんたちに少し特殊なものを感じたので話をさせてください。僕はモデリング もアバター 販売もしませんが、一応、事業というか社長をやり始めた人間なので勉強がてらアバター 販売について考えています。
特殊さを平たく言うと、あるアバター を愛するほど、もうその人は他のアバター を買わなくなる ということです。
それっぽく言うならロイヤルティが高まるほど、LTVが伸びないということです。
現実で言うとグッチの帽子が大好きになったとして、他にグッチを買わずに、同じ帽子に色を塗ったり小物を追加したりしてずっと使い続けるということですね。グッチとしては困ります。
でも、アバター を作りたい人は新しいアバター を作ります。これはアバター を作る人が「アバター を作るのが好き」だからだと思います(たぶん)。アバター を作る人も、アバター を買う人もVR を愛しています。それ故に、不思議なことが起こります。
なぜアバター 販売は不思議なマーケットなのか
それには 「VR の私」があるから です。
このVR パーソナリティ とでも言うべきものが、VRChatでは超、超ド級 に重要な要因となります(今、勝手に名付けました)。
VR 上での僕:
VRChatを知らない人は想像してください。1ヶ月ぶりにあった友だちが顔や服装、身長も変わっていたらどう思うでしょうか。全くの別人です。「誰?」ってなりますよね。VRChatでアバター を変えると、そういうことが起こります。
たしかにネームプレートは頭上にあるのですが、心理的 に姿が違うと結構驚くのは事実です。話しているときの感覚もかなり影響されます(場合によっては相手を好きになるかどうかも変わる)。
なので、多くのVRChatユーザーは基本的にアバター を変えません 。普段使うアバター は2、3個くらいでしょう。たまに出すのを含めて5個か6個ほどあれば多い方だと思います。
さらに、特定のコミュニティに居付いた(VRChatにドハマリした)人ほどアバター を変えません。
それはVR 上での人格(VR パーソナリティ)が形成されればされるほど、そのアバター に自分が宿ってるから です。
つまり、アバター にお金を使わなくなるということです。
ドハマリVRChatユーザーは改造で個性を出す
ドハマリしたVRChatユーザーも、自分のアバター には個性を出したいものです。
そこでVRChatユーザーはアバター 改変やテクスチャー改変、小物の追加に乗り出します 。
アバター をいじって色を変えたり、買ってきたメガネを足したり、すごい人では体型や服を変えたりします(すごい。すごすぎる)。
なのでVRChatのプレイ時間が長い人ほど、Photoshop やUnity、Blender に詳しくなっていく傾向があります。
Blender は難しいが
ただ待ってください。
売る側としては、ファッション好きな人が服を作ったり改造して満足すると困ります。
アバター を買う人でも5個ほどしか買わないのであれば、アバター 1つあたり4000円としても1人あたり2万円の売り上げです 。なんと、ちょっと良いジャケット1枚くらいの売り上げです。それがプレイ時間1000時間とかいう「VRChatイコール人生」みたいな人でも起こっているわけですね。
アバター にはどういう販売戦略を取るべきなのか
アバター を作る側に話を戻しましょう。どういう販売戦略が考えられるでしょうか?
前提:人気アバター は作れない
まず、「人気クリエイターになる」、「人気になるアバター を作る」という考えはしないようにします。
アバター の良し悪しなどはスキルや芸術の問題なので、ここでは扱いません。戦略を考えましょう。
これは「アバター を売って生計を立てたい」「けど売れるアバター を作れない」という人向けへの戦略です。好きに作って好きに売るんじゃいという人は、好きにやるのが一番だと思います。
お客様への仮説3つ:VR パーソナリティ、意外とズボラ、お金は出す
おさらいすると、VRChatユーザー特徴として重要なのは「アバター を使い続ける」ことでした。
大切になるお客様の感情は「自分らしさ」を常に感じ続けたいということ です。これを一番大切に考えましょう。
次に、「意外とみんなズボラ」という仮説を立てます。
これは僕なんかがそうなんですが、正直、UnityやPhotoshop 、Blender を毎度使うのはしんどい です。たまに使うのは勉強になって良いですが、現実で言うと着替えの度に裁縫セットを持ち出すような状態なのは良くないと思います(実際の数字は要調査ではあります)。
最後に、「お金は出せる」という仮説も立てます。
VRChatユーザーの人口はまだまだ少ないですが、1人辺りが出すお金は多いと考えます。
フルトラッキング の環境やゲーミングPCに個人で合計30万円ほど出す人がざらにいます 。コアユーザーのプレイ時間の長さや、「VR で飲めば飲み会より安い」ことを考えれば、それでも娯楽のコスパ は良いです。
さらに愛の大きさを考えれば、意外と市場は小さくないと考えられます。これも要調査ではありますが、ここは「出す人は出す」前提で考えさせてください。
戦略1:正式対応の衣装、小物を大量に作る
VRChat用のアバター などが売られているBOOTHを見ると、小物や衣装も大量に売られていると分かります。
たとえば有名アバター 「ミーシェ」でBOOTH検索すると、第三者 によるミーシェ互換の衣装や小物が大量にヒットします。
アバター 改変においても、小物まで自分で作ろうとする人はいないので、個性を出すために小物は大切です。
ですがアバター を作っている人が公式に衣装や小物を作っているのは稀です。
ここではそれを逆手に取って、アバター だけでなく、公式対応!一発導入!な衣装と小物を大量に作りましょう 。
人気のアバター が人気の理由の1つは、対応している衣装や小物が多いこと もあります。
これを自分の売っているアバター に適応して、公式に衣装を作りまくります。ご一緒にポテトはいかがですか!(ホタテではない)
衣装だけで20個、小物で30個、テクスチャーで30個作れれば良いと思います。新しいアバター をいくつもモデリング するくらいなら、超優秀なアバター を1つだけ作って、衣装を10個作ったほうが良い です。
この公式の衣装、小物、テクスチャーの組み合わせで考えれば、数1000の個性を演出できます。
BOOTHを眺めたりVRChatを散策して、売れてそうな衣装や小物の傾向を分析しましょう。
それを公式に作って「ワンクリックで着せ替え可能!」にすればアバター も衣装も売れるでしょう。
さらに服が増えれば、個性に応じた自社ブランドを数個立ち上げてもいいでしょう。これは次のパーソナリティの網羅に繋がります
戦略2:パーソナリティの網羅
上記のポテト戦略に重要になるのは元となるアバター です。
まず、あなたが作るアバター 1体には、3体分の労力をかけて作りましょう 。
そして、そのアバター を2体か、できれば3体だけ作ります。
その少ないアバター で、パーソナリティを網羅できるようにしましょう。
パーソナリティとはたとえば以下です。
長髪・短髪
クール・快活
長身・低身長
フェミニン・ボーイッシュ
これは 「レイ・アスカ」戦略 です。
エヴァ を観た人はレイかアスカを好きになります。大人しい子が好きな人はレイへ、明るい子が好きな人はアスカへ。
短髪が好きな人はレイへ、長髪が好きな人はアスカへ(大人が好きな人はミサトかリツコか、という設計です。すごい!すごすぎる!)。
こんな感じで、少ないアバター の中でも色んな好み・個性が網羅できるようにしましょう。アバター 単体では(VRChat基準の)万人にウケること を狙います(適度に個性やニッチがあると良いと思います)。
できれば対極的な2体があると良いです。そしてシェイプキーで見た目を調整できるのが大事 です。
シェイプキーと上記の服装やファッションの好みで、個性を最大限に出せるようにします。
アバター をいくつも作る必要はありません。アバター は販売のきっかけ(フロントエンド商品)と考えます。3000円以下で売るのが良いと思います。
サンプルアバター も、サンプル感を出さずに積極的に配布すべきです。購入したままアバター を使う人を想定しませんので、何も変更できないサンプルをずっと使われても痛手はありません。
戦略3:ロイヤルティカスタマー向け専用対応
同時に、お客様のロイヤルティ(愛)が高まった先にあるものを用意します。
それは受注生産です 。
究極のパーソナリティ、究極の愛は「唯一無二であること」です。
この受注アバター を絶対に一般へ再販してはいけません 。
受注生産と言っても、完全受注生産はしません。上記のアバター を元にして依頼された改変をしましょう。
スーツでいうイージー オーダーというもので、基本はありつつも好みに合わせて作っていくという感じです。
だいたい3~8万円ほどにまとまるのが理想です(VR 機器の値段くらいなら僕も出せる範囲)。
そして、販売しているアバター でのイベントを定期開催します。
同じアバター を使っている人のファッションや小物、シェイプキーの組み合わせを披露し合います。そうすれば他の服や改変にも興味がでるでしょうし、自前で改良する知見も広まります。
ここに圧倒的にカワイイ受注生産アバター の人をお呼びすれば最高です。
こうして自分の作ったアバター を中心にコミュニティや世界観を作ることで、他のアバター にはないものが生まれます。
今、有名になっているアバター は自然発生的にこういうこと(対応衣装の販売、アバター 集会、改造)が起こっているので、それを踏襲する戦略です。
有名アバター を作るというのはかなり難しいと思いますが、この3つの戦略を順にやっていけば割と買ってくれる人はいそうに思えます。
そもそもカワイイ・カッコいいというのは大前提ですが(!)。
まとめ
まずVRChat(VR SNS )におけるアバター 販売の特殊さをまとめました
VRChatユーザーは、ハマるほど買わなくなる
アバター を作る人は、好きゆえにアバター を作る
さらにVRChatユーザーが本当に求めるものを考えてみました
VR パーソナリティが何より大事
改変・改造が面倒に感じるときもある
お金はわりと出せるし、多少出してもプレイ時間が長いからコスパ は良い
そしてその動向から3つの戦略 を出しました
衣装・小物・テクスチャーを公式で大量に作って売る(セットのポテト戦略)
パーソナリティを網羅できるアバター を少数先鋭で作る(レイアスカ戦略)
イベント開催と受注生産の対応(再販は絶対にしない究極の個性)
以上です。
僕はこの「VR パーソナリティ」と、それを基軸にした販売戦略というのはアリだと思います。
ぜひアバター の制作、販売で生計を立てている人は参考にしてください。まずは本当にこう考えるお客様がいるかをたしかめつつ、小さく始めるのが良いと思います。結果を僕に教えてくれると嬉しいです。
僕はVRChatやVR SNS の世界が大好きなので、この世界が産業としてもっと盛り上がれば嬉しいです。
あまりビジネスライクになるのは良くないですが、好きにモデリング する人がもっと増えて、生計をたてられるようにするのは大切だと思います。
それでは皆さん、かんぱい、かんぱい。
執筆:Kiyohara Hiroki (@hirokiky)
(この記事はShodo で執筆されました )